- コラム
「その塀、本当に境界線ですか?」湘南の空き家売却を阻む“境界未確定”のリスクと測量のススメ
「買い手も見つかり、ようやく空き家を売却できると思ったのに、契約直前で『境界が未確定のため、ローンが組めません』と、すべてが白紙になってしまった…」
これは、湘南エリアの古い空き家を売却しようとした際に、実際に起こりうる深刻なトラブルです。
家の清掃やリフォームに気を取られ、多くの方が見落としてしまう「土地の境界線」の問題。これが、あなたの空き家売却における最大の「隠れた地雷」かもしれません。
この記事では、空き家売却の成功を左右する「境界確定」の重要性と、具体的な費用や期間、そして今すぐ始めるべき理由を、専門的な視点から徹底解説します。
なぜ「境界確定」が必要なのか?ないと何が起きる?
「親の代から、このブロック塀が境界だと聞いているから大丈夫」…本当にそうでしょうか?口約束や古い記憶は、法的な効力を持ちません。境界が未確定のまま売却を進めると、以下のような致命的な問題が発生します。
- そもそも売れない(買主が住宅ローンを使えない)
金融機関は、資産価値が曖昧な土地への融資を極端に嫌います。法的に境界が確定した「確定測量図」がなければ、買主は住宅ローンを組むことができず、現金で購入できる人にしか売れなくなってしまいます。これにより、買い手の範囲が著しく狭まり、売却は極めて困難になります。 - 深刻なご近所トラブルの原因になる
売却後に、買主と隣地所有者との間で「塀の位置がおかしい」「うちの土地に数センチはみ出している」といった深刻なトラブルに発展する可能性があります。最悪の場合、損害賠償問題にまで発展しかねません。 - 本当の資産価値が分からない
古い登記簿に記載された面積(公簿面積)と、実際に測量した面積(実測面積)が異なることは珍しくありません。測量してみたら土地が想定より狭く、売却価格を下げざるを得なくなることもあります。
湘南・県西エリアで特に「境界トラブル」が多い理由
歴史と自然が豊かな湘南・県西エリアですが、その特性が境界問題をより複雑にしています。
- 古い分譲地や別荘地
鎌倉市や逗子市、大磯町、箱根町などに見られる戦前・戦後の古い分譲地では、当時の測量技術の限界から、図面と現況が一致しないケースが多発します。 - 複雑な地形
箱根町や山北町、真鶴町などの山間部・傾斜地では、平坦な土地に比べて境界杭が見つけにくく、境界線が曖-昧になっていることが少なくありません。 - 海岸沿いの土地
茅ヶ崎市や藤沢市の海岸近くでは、長年の利用状況の中で、砂の移動や昔ながらの通路、慣習的な敷地の利用が、登記上の境界と異なっている場合があります。
「確定測量」とは?費用と期間のリアルな目安
「境界確定」のための正式な手続きを「確定測量」と言います。
- 何をするのか?
「土地家屋調査士」という国家資格者が、法務局の資料などをもとに現地を測量します。その後、隣接する全ての土地所有者(隣人)と現地で立ち会い、全員から「ここが境界で間違いありません」という同意の署名・捺印(実印)をもらい、法的に有効な「確定測量図」を作成する作業です。 - 期間の目安:
3ヶ月~6ヶ月以上。これは驚かれるかもしれませんが、事実です。隣地所有者が遠方に住んでいたり、非協力的だったり、あるいは既に亡くなっていて相続人が多数いる場合など、関係者全員の同意を取り付けるのに非常に時間がかかるためです。「売却を決めてから始める」のでは、多くの場合手遅れになります。 - 費用の目安:
40万円~80万円程度が一般的です。ただし、土地の形状が複雑だったり、隣地所有者が多かったり、道路との境界確定(官民査定)が必要だったりすると、100万円を超えることもあります。
一番知りたい「測量費用は誰が負担するの?」
これだけの費用と時間がかかる測量。一体誰が負担するのでしょうか。
原則は「売主負担」です。
不動産取引において、売主は買主に対して「境界を明示する義務」を負っています。「欠陥のない、クリーンな商品」として土地を引き渡すのが売主の責任であるため、測量費用は売却のための必要経費と考えるのが一般的です。
まれに「公簿売買」といって、測量をせず登記簿上の面積で取引するケースもありますが、これは買主側がリスクを負うため、大幅な価格交渉の材料にされ、結局は測量費用以上に損をすることがほとんどです。
まとめ:測量は「コスト」ではなく、資産価値を守る「投資」
「境界確定」は、単なる出費ではありません。それは、
- 売却をスムーズに進め、
- 将来のトラブルを完全に防ぎ、
- あなたの資産の本当の価値を明確にする
ための、不可欠な「投資」です。
相続が発生した、あるいは将来的に売却を考え始めた、というタイミングで、できるだけ早い段階で専門家に相談し、測量の必要性を確認することが、最終的にあなたの時間と費用、そして心の平穏を守る最善策となります。
司法書士が運営する「湘南空き家バンク」では、必要であれば、相続手続きの段階から測量の必要性を診断し、信頼できる土地家屋調査士を手配するまで、ワンストップでサポートが可能です。
複雑な権利関係の整理は、ぜひ私たちにご相談ください。