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湘南の空き家問題に対応する:3つの核心的選択肢と戦略的ガイド

はじめに:湘南のパラドックス – 不動産所有者に迫るタイムリミット

湘南エリアは、その美しい海岸線と豊かなライフスタイルで知られ、不動産市場においても非常に人気の高い地域です。しかし、この高い需要とは裏腹に、少子高齢化や人口動態の変化に伴い、空き家が年々増加するという深刻な問題に直面しています。これは「湘南のパラドックス」とも呼べる状況であり、価値ある資産が、所有者にとって大きな負債へと変わりかねないリスクをはらんでいます。

このレポートは、湘南エリアに空き家を所有する方が直面する複雑な課題に対し、明確かつ実行可能な指針を提供することを目的としています。相続によって思いがけず物件を引き継いだ所有者の多くは、専門家ではないがゆえに、その管理責任の重さや法的な義務、そして将来的な選択肢について戸惑いを感じていることでしょう。本ガイドは、そうした所有者の心情に寄り添いながらも、データに基づいた論理的かつ戦略的な道筋を示すものです。

具体的には、空き家に対して取りうる3つの基本的な戦略的選択肢、すなわち「売却」「活用」「管理・解体」について、それぞれの手続き、メリット・デメリット、そして湘南エリアの各自治体が提供する支援制度を網羅的に解説します。 inaction(何もしないこと)が最もコストのかかる選択肢であるという現実を踏まえ、本レポートは、所有者が情報に基づいた迅速な意思決定を下し、潜在的な負債を再び価値ある資産へと転換するための一助となることを目指します。

第1章 不作為の高すぎる代償:法的・経済的リスクを理解する

空き家を所有するということは、単に資産を持つということだけではありません。それは法的な管理責任を負うことを意味します。特に近年、国や自治体は空き家問題への対策を強化しており、所有者が適切な管理を怠った場合のリスクは、かつてないほど高まっています。この章では、空き家を放置することによって生じる具体的な法的・経済的リスクについて詳述します。

1.1 法的枠組み:「空家等対策の推進に関する特別措置法」

空き家対策の根幹をなすのが「空家等対策の推進に関する特別措置法」(以下、空家法)です。この法律は、空き家の所有者または管理者(相続人や法定代理人を含む)に対し、周辺の生活環境に悪影響を及ぼさないよう、物件を適切に管理する責任があることを明確に定めています。

管理不全空家と特定空家の定義

2023年12月に施行された改正空家法は、行政がより早期に介入できるよう、新たに「管理不全空家」というカテゴリーを設けました。これは、放置すれば将来的に「特定空家」になる恐れのある状態を指し、所有者にとっては重要な警告シグナルとなります。

  • 管理不全空家 (Management Deficient Vacant House)
    窓ガラスが割れていたり、ゴミが散乱していたり、雑草や樹木が繁茂して隣地に越境しているなど、そのまま放置すれば「特定空家」に移行する可能性が高い状態の空き家が該当します。この段階で、自治体から改善を求める「指導」の対象となります。
  • 特定空家 (Specified Vacant House)
    さらに危険度や周辺への悪影響が高い状態と判断されると、「特定空家」に指定されます。国土交通省のガイドラインによれば、以下の4つの基準のいずれか一つに該当する場合に認定されます。

    • 保安上危険となるおそれのある状態: 建物が傾いていたり、屋根や外壁が剥がれ落ちそうになっていたりと、倒壊の危険がある状態。
    • 衛生上有害となるおそれのある状態: ゴミの放置による害虫の発生や悪臭、アスベストの飛散リスクなど、衛生環境を著しく悪化させる状態。
    • 景観を損なっている状態: 落書きが消されずに放置されていたり、建物の大部分がツタで覆われていたりするなど、周辺の景観との調和を著しく欠く状態。
    • その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態: 立木の繁茂による日照阻害、動物の棲みつきによる騒音や糞尿被害、不審者の侵入など、近隣住民の生活に支障を及ぼす状態。

行政措置のエスカレーション・プロセス

自治体は、問題のある空き家に対して、段階的に措置を講じます。このプロセスを理解することは、所有者がどの段階でどのような対応を迫られるかを知る上で不可欠です。

  1. 調査: 市民からの通報や職員によるパトロールを通じて、問題のある空き家の実態を把握します。
  2. 助言・指導: 所有者を特定し、まずは口頭または書面で改善を促します。この段階では法的な強制力はありませんが、事態を深刻に受け止めるべき最初のサインです。
  3. 勧告: 指導に従わない場合、自治体は期限を設けて改善を「勧告」します。これは極めて重要な段階であり、この勧告を受けると、後述する固定資産税の優遇措置が解除されるという重大な経済的ペナルティが発生します。
  4. 命令: 正当な理由なく勧告に従わない場合、自治体は改善を「命令」します。これは法的な拘束力を持ち、命令に違反すると最大50万円の過料が科される可能性があります。
  5. 行政代執行: 命令にも従わない場合、最終手段として行政が所有者に代わって解体などの措置を強制的に実行します。

1.2 経済的損失:放置がもたらす財務的ダメージ

空き家の放置は、単なる機会損失にとどまらず、直接的な経済的損失を引き起こします。特に税金と強制解体費用は、所有者の財産を大きく損なう可能性があります。

税金のペナルティ:固定資産税が最大6倍に

住宅が建っている土地には、固定資産税・都市計画税が大幅に減額される「住宅用地の特例」が適用されています。具体的には、200㎡以下の部分(小規模住宅用地)の固定資産税課税標準額が6分の1に、都市計画税が3分の1に軽減されます。

しかし、前述の行政措置において「勧告」を受けると、その空き家はもはや「住宅用地」とは見なされなくなり、この特例が解除されます。その結果、土地の固定資産税は最大で6倍、都市計画税は3倍に跳ね上がります。(出典:政府広報オンライン)これは、空き家を放置する所有者にとって最も直接的で深刻な経済的打撃です。

強制解体の費用:所有者への全額請求

行政代執行による解体が行われた場合、その費用は全額所有者に請求されます。問題は、その費用が市場価格よりも高額になる傾向があることです。自治体はコスト削減よりも確実な執行を優先するため、最も安い業者を選定するとは限りません。

さらに深刻なのは、この請求が税金の滞納と同様に扱われる点です。支払いが滞れば、所有者の給与、預貯金、現在住んでいる自宅や自動車といった他の資産が差し押さえられ、公売にかけられる可能性があります。この債務は自己破産しても免責されないため、一度発生すると逃れることは極めて困難です。

1.3 周辺への影響と所有者責任

経済的リスクに加え、管理不全の空き家は地域社会全体に悪影響を及ぼします。

  • 物理的・社会的な危険: 老朽化した建物の倒壊や、台風・地震時の屋根材の飛散は、通行人や隣接する家屋に直接的な被害を与える可能性があります。また、人の出入りがない家は放火や不法投棄、犯罪の温床となり、地域の治安を悪化させます。
  • 民法上の工作物責任: 空き家が原因で第三者に損害を与えた場合(例:倒れたブロック塀で通行人が怪我をした)、所有者は民法上の工作物責任を問われ、損害賠償を請求される可能性があります。

法改正がもたらした最も重要な変化は、行政の対応が「事後対処型」から「事前予防型」へと大きくシフトした点にあります。2023年の改正で「管理不全空家」というカテゴリーが新設されたことは、この流れを象徴しています。(出典:国土交通省)従来は、「特定空家」という極めて危険な状態に陥らなければ、行政は強力な措置を取れませんでした。しかし、この高いハードルが、危険度は高いものの特定空家には至らない多くの空き家の放置を助長してきました。

「管理不全空家」の導入は、この介入のハードルを大きく引き下げるものです。自治体は、物件が致命的な状態になる前の、より早い段階で行動を起こせるようになりました。その最大の武器が、固定資産税の優遇措置の解除という経済的圧力です。これにより、所有者は「まだ大丈夫だろう」という安易な先延ばしが許されなくなり、早期の対応を迫られることになります。この法改正は、空き家所有者にとって「様子見」という選択肢がもはや存在しないことを意味しており、問題への向き合い方を根本的に変えるものです。

第2章 出口戦略:湘南の不動産を売却する

空き家問題から完全に解放される最も確実な方法は売却です。特に需要の高い湘南エリアでは、売却は非常に現実的な選択肢となります。しかし、その方法は一つではありません。所有者の状況や物件の状態に応じて、最適な売却チャネルを選択することが重要です。

2.1 売却チャネルの選択:仲介 vs 買取

不動産の売却には、大きく分けて「仲介」と「買取」の2つの方法があります。それぞれに明確なメリットとデメリットが存在します。

  • 仲介:価格の最大化を目指す
    不動産会社に依頼し、一般市場で買主を探してもらう最も一般的な方法です。
    メリット: 市場価格に近い、あるいはそれ以上の高値で売却できる可能性があります。専門家による販売活動が期待できます。
    デメリット: 買主が見つかるまでに時間がかかり、売却が保証されているわけではありません。売却時には仲介手数料が発生します。また、内覧対応のために清掃や簡単なリフォームが必要になる場合もあります。
  • 買取:スピードと確実性を優先する
    不動産会社や専門の買取業者に、物件を直接買い取ってもらう方法です。
    メリット: 査定から現金化までの期間が非常に短く、最短数日で完了することもあります。仲介手数料は不要で、物件は現状のまま(「瑕疵担保責任」や「契約不適合責任」が免除されることが多い)で売却できます。近隣に知られずに売却を進められる点も利点です。老朽化が激しい、再建築が難しいなど、一般市場で売りにくい物件に特に有効です。
    デメリット: 売却価格が市場価格の7割~8割程度になるなど、仲介に比べて安くなるのが最大の欠点です。

2.2 手続きガイド:相続した空き家を売却する

相続した空き家を売却する場合、税制上の特例を活用できるかどうかが手残りを大きく左右します。

ステップ1:相続登記の確認と実行

2024年4月1日から相続登記が義務化されました。売却の前提として、まず法務局で不動産の名義を被相続人から相続人へ変更する手続きを完了させる必要があります。

ステップ2:「相続空き家の3,000万円特別控除」の活用

これは、相続した空き家を売却した際の譲渡所得(売却益)から最大3,000万円を控除できる非常に有利な税制特例です。

主な適用要件:

  • 相続開始日から3年が経過する年の12月31日までに売却すること。
  • 特例の適用期限である2027年12月31日までに売却すること。
  • 売却代金が1億円以下であること。
  • 売却する建物が一定の耐震基準を満たしているか、あるいは建物を解体して更地として売却すること。
  • 税務申告の際に、物件所在地の市区町村が発行する「被相続人居住用家屋等確認書」を添付すること。

注意点: 相続人が3人以上いる場合、1人あたりの控除額は2,000万円に減額されます。

2.3 売却を支援する自治体の制度

湘南エリアの自治体は、空き家の売却を後押しするための様々な支援策を用意しています。

  • ワンストップ相談窓口: 小田原市や逗子市などでは、不動産の専門家団体と連携した「ワンストップ相談窓口」を設置しており、売却に関するあらゆる相談に対応しています。
  • 空き家バンク: 自治体が運営するプラットフォームで、売りたい所有者と買いたい希望者をマッチングさせる制度です。
    • 広域連携型: 神奈川県西部エリア(小田原市、南足柄市、真鶴町、湯河原町など)をカバーする「かながわ県西空き家バンクポータルサイト」があります。
    • 市町村単独型: 藤沢市、平塚市、逗子市なども独自の空き家バンクを運営しています。
  • 民間プラットフォーム: 行政のバンクとは別に、「湘南空き家バンク」のように、所有者と購入希望者が直接やり取りできる民間のマッチングサイトも登場しており、仲介手数料を抑える選択肢として注目されます。

表:湘南エリア市町の売却関連補助金制度

自治体 補助金制度の名称・内容 補助上限額・補助率 主な条件
小田原市 空家等の売買に係る仲介手数料補助制度 5万円 支払った仲介手数料の2分の1
南足柄市 空き家取得費助成金 50万円 空き家バンク経由で購入した転入者(子育て世帯)が対象
箱根町 定住促進空き家活用奨励金 5万円 空き家バンク経由で売却した所有者が対象

注:補助金制度は年度によって内容が変更されたり、予算上限に達し次第終了したりする場合があります。申請前に必ず各自治体の担当窓口にご確認ください。

市場には出ていないものの、活用されずに放置されている「隠れた空き家」が多数存在します。これらの物件は、所有者が遠方に住んでいたり、管理の知識や費用負担への懸念から売却活動に踏み出せないケースが少なくありません。従来の不動産仲介会社は、手間がかかる割に手数料が見込めない古い物件や条件の悪い物件の取り扱いを敬遠しがちです。

この市場の隙間を埋めるのが、専門の買取業者や「湘南空き家バンク」のような直接マッチングプラットフォームです。彼らは、一般市場では買い手が見つかりにくい物件をターゲットとし、迅速な現金化という価値を提供することでビジネスを成立させています。したがって、完璧とは言えない状態の空き家を所有している場合でも、出口戦略は伝統的な仲介だけに限りません。むしろ、これらの代替チャネルこそが、迅速かつ確実な解決策となる可能性があることを認識することが重要です。

第3章 再生戦略:湘南の不動産を活用する

空き家を負債ではなく、収益を生む資産として再生させる「活用」も有力な選択肢です。特に湘南エリアは、そのブランド力と居住ニーズの高さから、多様な活用方法が考えられます。

3.1 賃貸または自己利用のためのリノベーション

市場の可能性: 藤沢市周辺などでは賃貸需要が堅調であり、空き部屋が少ない状況も見られます。築年数が古い木造住宅でも、リノベーションによって「昭和レトロ」や「古民家風」といった付加価値を持たせることで、魅力的な賃貸物件やカフェ、レストランとして再生できる可能性があります。

計画のポイント: リノベーションには相応の初期投資が必要です。特に1981年以前に建てられた旧耐震基準の建物は、耐震補強工事が必須となる場合が多く、専門家による建物診断が欠かせません。

3.2 新しい活用モデル

伝統的な賃貸だけでなく、新しいライフスタイルや社会のニーズに応える活用方法も広がっています。

  • 民泊: 湘南のような観光地では、民泊は高い収益が期待できる活用法です。ただし、住宅宿泊事業法(民泊新法)により、年間営業日数が180日に制限されている点や、自治体への届出、近隣トラブルへの配慮が不可欠です。火災保険への加入など、安全対策も万全にする必要があります。
  • シェアハウス: 一つの建物を複数の入居者で共有するシェアハウスは、高い利回りが期待できます。注意点として、住宅をシェアハウスに転用する場合、建築基準法上「寄宿舎」扱いとなり、防火壁の設置など、より厳しい安全基準が求められることがあります。しかし、2019年の建築基準法改正により、延床面積200㎡未満の建物であれば、用途変更時の建築確認申請が不要となり、多くの戸建て空き家でシェアハウスへの転用が現実的になりました。
  • 地域貢献型の活用: 空き家をコミュニティカフェや子ども食堂、高齢者の居場所、コワーキングスペースなど、地域の課題解決に貢献する施設として活用するモデルです。藤沢市の「空家利活用事業補助金」のように、こうした取り組みを支援する自治体の補助金制度も充実しています。

3.3 活用支援制度の利用手続き

これらの活用策を検討する際は、自治体の支援を最大限に活用することが成功の鍵となります。

  • 自治体への事前相談: 何よりもまず、計画段階で市の担当窓口に相談することが重要です。藤沢市、逗子市、小田原市などにはワンストップ窓口が設置されており、専門家のアドバイスを受けられます。
  • 補助金の申請: ほとんどの補助金は、工事着手前の申請が必須条件です。契約や工事を開始する前に、必ず補助金の申請手続きを完了させてください。
  • 地元業者の活用: 補助金の中には、地域経済の活性化を目的として、市内の施工業者の利用を条件としている場合があります。

表:湘南エリア市町のリフォーム・活用関連補助金制度

自治体 補助金制度の名称・内容 補助上限額・補助率 主な条件・用途
藤沢市 空家利活用事業補助金 100万円 (費用の2/3) 地域貢献事業(コミュニティカフェ等)のための改修
逗子市 空き家活用支援助成 30万円 空き家バンク登録物件を活用した市民活動や起業
茅ヶ崎市 空家利活用事業補助金 100万円 (費用の2/3) 地域貢献事業を行う団体が対象
鎌倉市 木造住宅耐震改修工事費等補助 100万円 (費用の1/2) 旧耐震基準の木造住宅の耐震改修
葉山町 住宅リフォーム資金補助制度 5万円 (一律) 町内業者による住宅リフォーム
二宮町 空き家リフォーム補助事業 50万円 (費用の1/2) 空き家バンク登録物件のリフォーム
中井町 空き家活用推進事業補助金 80万円 (費用の1/2) 子育て・若年夫婦世帯による空き家の取得・改修
松田町 空き家改修事業費補助制度 30万円 (費用の1/2) 定住目的の空き家改修(町内商工会会員施工の場合)
山北町 空き家活用助成金 10万円 空き家バンク登録物件の修繕
箱根町 空き家リフォーム事業補助制度 50万円 (費用の1/2) 定住目的の空き家バンク登録物件のリフォーム

注:上記は代表的な制度であり、耐震改修や危険ブロック塀撤去など、他の補助金制度も多数存在します。詳細は各自治体にお問い合わせください。

第4章 維持戦略:不動産の管理または解体

直ちに売却や活用が難しい場合でも、放置は許されません。適切な「管理」は所有者の法的義務であり、将来の選択肢を確保するための重要な戦略です。そして、状況によっては「解体」が最も合理的な判断となることもあります。

4.1 積極的な維持管理:効果的な不動産管理

適切な管理を怠れば、「管理不全空家」に認定され、税金の増額という厳しいペナルティが待っています。それを回避するための最低限の管理作業は以下の通りです。

必須の管理タスク:

  • 通気・換気: 湿気によるカビや木材の腐食を防ぐため、定期的に窓を開けて空気を入れ替える。
  • 通水: 水道管の錆や破損、排水トラップの乾燥による悪臭や害虫の侵入を防ぐため、定期的に蛇口から水を流す。
  • 庭の手入れ: 雑草の除去や庭木の剪定は、景観維持だけでなく、害虫発生や隣地への越境トラブルを防ぐ上で不可欠です。
  • 清掃と点検: 郵便受けの整理、建物の外観チェック(屋根、壁の破損など)を行い、不法投棄や不法侵入の兆候がないか確認します。

管理代行サービスの活用: 遠方に住んでいるなど、自身での管理が難しい場合は、専門の管理代行サービスを利用するのが現実的です。

  • シルバー人材センターという選択肢: 特にコストを抑えたい場合に有効なのが、各自治体のシルバー人材センターが提供する空き家管理サービスです。市と協定を結んでいる場合も多く、手頃な価格で基本的な管理を委託できます。
  • 提供サービス: 主に屋外からの目視点検、写真付き報告、郵便物整理、敷地内の除草・剪定などです。
  • 料金: 非常に安価で、例えば横浜市では月額3,480円から、小田原市では1回3,300円からといった料金設定があります。

4.2 更地という選択:最終手段としての解体

建物の老朽化が著しく、リノベーション費用が現実的でない場合や、土地そのものに価値があり、更地にした方が売却しやすい場合には、解体が最適な選択となります。

  • 解体のプロセス: 複数の解体業者から見積もりを取り、契約後、工事を実施します。工事完了後は、法務局へ「建物滅失登記」を申請する必要があります。
  • 税制上の注意点: 解体における最大の注意点は、建物を解体すると土地の固定資産税が更地扱いとなり、「住宅用地の特例」が適用されなくなることです。これにより、税額が3倍から6倍に増加する可能性があるため、解体後の土地の活用計画(売却など)を事前にしっかりと立てておく必要があります。

表:湘南エリア市町の解体関連補助金制度

自治体 補助金制度の名称・内容 補助上限額・補助率 主な条件
松田町 空き家解体事業費補助金 50万円 (費用の1/2) 「管理不全空家」と認定された物件
湯河原町 空き家解体事業費補助金 30万円 (費用の1/2) 「特定空家等」と認定された物件
茅ヶ崎市 木造住宅除却事業補助金 36万円 耐震診断で危険と判定された木造住宅
平塚市 建替え除却工事の補助金 36万円 (費用の1/3) 耐震性が低い住宅の建替えに伴う解体
真鶴町 解体に関する補助金は確認されず

注:補助金制度は年度によって内容が変更されたり、予算上限に達し次第終了したりする場合があります。申請前に必ず各自治体の担当窓口にご確認ください。

空き家管理は、それ自体が最終的な解決策ではありません。むしろ、ペナルティを回避し、より良い選択をするための時間を確保する「戦略的待機」と位置づけるべきです。月額数千円で利用できるシルバー人材センターのようなサービスは、所有者が直面する「管理不全空家」認定のリスクを低コストでヘッジするための非常に有効な手段です。これにより、所有者は税金増額のプレッシャーから一時的に解放され、腰を据えて「売却」か「活用」かという、資産の将来を決定づける本質的な判断に集中することができます。したがって、管理は3つの選択肢の一つというより、他の2つの選択肢を冷静に検討するための不可欠な第一歩と捉えるべきです。

結論:あなたの進むべき道筋を描く – 湘南の空き家に関する意思決定フレームワーク

湘南エリアの空き家問題は、放置すれば深刻なリスクをもたらしますが、適切な知識と行動をもって臨めば、新たな価値を創造する機会ともなり得ます。本レポートで詳述した「売却」「活用」「管理・解体」という3つの戦略的選択肢は、それぞれに異なるメリットとデメリットを持ち、最適な道筋は所有者一人ひとりの状況によって異なります。

最終的にどの道を選ぶべきか、以下のチェックリストを参考に、ご自身の状況を整理してみてください。

意思決定チェックリスト

  • 物件の状態は?
    • そのまま住める、または貸せる状態か?
    • 小規模なリフォームで活用可能か?
    • 大規模な修繕や耐震補強が必要か?(小田原市の建物状況調査費補助制度などを活用して専門家の診断を受けることも一考)
    • 構造的に危険で、解体を検討すべきか?
  • 経済的な状況は?
    • リフォームや解体の費用を捻出できるか?
    • 早急に現金化する必要があるか?(→買取を検討)
    • 固定資産税の負担をどの程度許容できるか?
  • 立地と市場性は?
    • 賃貸需要や観光需要が見込めるエリアか?
    • 再建築不可など、法的な制約はないか?
    • 周辺の不動産市場の動向はどうか?
  • 時間と距離の制約は?
    • 物件の近くに住んでおり、自身で管理が可能か?
    • リノベーションや賃貸経営に割く時間はあるか?(→なければ管理委託や買取が現実的)
  • 個人的な目標は?
    • 物件に関する責任から完全に解放されたいか?(→売却・解体)
    • 収益を生む資産として育てていきたいか?(→活用)
    • 将来的に自身や親族が利用する可能性はあるか?(→管理)

最も避けるべきは、判断を先延ばしにし、不作為の状態に陥ることです。それは最も高くつく選択肢に他なりません。このガイドが提供する情報を武器に、まずはご自身の物件が所在する市町の相談窓口へ連絡を取ることから始めてください。行動を起こすことで、空き家という課題は、あなたの手でコントロール可能なプロジェクトへと変わるはずです。

表:湘南エリア市町 空き家相談窓口一覧

自治体 担当部署 電話番号 主なサービス
藤沢市 市民相談情報課 / 住まい暮らし政策課 0466-50-3568 / 0466-50-3541 専門家相談、空き家バンク、補助金
茅ヶ崎市 都市政策課 住宅政策担当 0467-81-7181 住まいの相談窓口、空き家バンク
鎌倉市 都市整備総務課 住宅担当 0467-23-3000 (内線2824) 専門家団体との連携相談
逗子市 まちづくり景観課 046-873-1111 ワンストップ相談、空き家バンク、補助金
平塚市 建築指導課 0463-23-1111 空き家相談、空き家バンク
小田原市 都市政策課 都市調整係 0465-33-1307 ワンストップ窓口、空き家バンク、補助金
葉山町 政策課 046-876-1111 空き家総合相談窓口、空き家バンク
大磯町 都市建設部都市計画課 0463-61-4100 空き家総合相談窓口
二宮町 都市部都市整備課 0463-71-3311 空き家バンク、補助金
湯河原町 まちづくり課 0465-63-2111 空き家バンク、補助金
真鶴町 まちづくり課 0465-68-1131 空き家バンク
箱根町 企画観光部 企画課 0460-85-9560 空き家バンク、補助金
南足柄市 都市計画課 建築住宅班 0465-73-8001 空き家バンク、補助金
中井町 企画課 政策班 0465-81-1111 空き家バンク、補助金
大井町 地域振興課 0465-85-5013 空き家バンク、補助金
松田町 定住少子化担当室 0465-84-5541 空き家バンク、補助金
山北町 定住対策室 定住対策班 0465-75-3650 空き家バンク、補助金
開成町 都市計画課 0465-84-0317 空き家バンク、補助金