- コラム
固定資産税が6倍に?あなたの湘南の空き家に迫る『特定空家』のリスクと回避策
「湘南にある実家、そのうち何とかしよう」
「今は使っていないけれど、愛着があって手放せない」
そう思っているうちに、毎年支払う固定資産税が現在の6倍に跳ね上がる可能性があることをご存知でしょうか。これは決して大げさな話ではありません。
2015年に施行された「空家等対策の推進に関する特別措置法」(空き家法)により、管理が不十分な空き家は行政から「特定空家」に指定され、税金の優遇措置が受けられなくなるのです。さらに2023年の法改正では、その前段階である「管理不全空き家」も同様の措置の対象となり、リスクはより身近なものになりました。
この記事では、あなたの湘南の大切な資産を守るために知っておくべき「特定空家」の具体的なリスクと、今すぐできる回避策を専門的な視点から解説します。
第1章:「特定空家」「管理不全空き家」とは? あなたの家は大丈夫か
「うちはまだ大丈夫」と思っていても、法律上の基準は意外と厳しいものです。まず、どのような状態が問題視されるのかを正確に理解しましょう。
「特定空家」に認定される4つの基準
お持ちの空き家が以下のいずれか一つにでも該当すると、自治体から「特定空家」に認定される可能性があります。
- 保安上危険となるおそれのある状態
建物が傾いている、基礎に亀裂が入っている
屋根や外壁が剥がれ落ちそうになっている
壊れた門やブロック塀が倒れかかっている - 衛生上有害となるおそれのある状態
ゴミが放置され、悪臭や害虫が発生している
浄化槽の破損により汚物が流出している
動物が住み着き、糞尿の被害が出ている - 景観を損なっている状態
外壁への落書きが放置されている
窓ガラスが割れたままになっている
雑草や庭木が伸び放題で、周囲の景観と著しく不調和な状態 - その他、周辺の生活環境の保全に不適切な状態
不審者が容易に侵入できる状態になっている
繁茂した木々の枝が隣家や道路にはみ出している
動物の鳴き声などが騒音問題になっている
2023年法改正で新設された「管理不全空き家」
さらに深刻なのは、2023年12月に施行された改正空き家法です。これにより、「特定空家」になる手前の段階、つまり上記の4つの状態になるおそれがある家も「管理不全空き家」として、行政指導の対象となりました。これにより、これまで以上に早期の適切な管理が求められることになったのです。
第2章:なぜ固定資産税が最大6倍になるのか?その仕組みを解説
「税金が6倍になる」という言葉の根拠は、固定資産税の「住宅用地の特例」という制度にあります。(この仕組みとコストの詳細については、放置の年間コストとリスクの記事でも詳しく解説しています。)
通常、住宅が建っている土地にはこの特例が適用され、土地の固定資産税が最大で6分の1に軽減されています。多くの空き家所有者が、この恩恵を受けるために建物を解体せずに維持してきました。
しかし、あなたの空き家が「管理不全空き家」または「特定空家」に指定され、自治体からの改善を求める「勧告」に従わなかった場合、この「住宅用地の特例」が解除されてしまうのです。
特例が解除されると、土地の評価額に直接税率がかけられるため、税額が最大で6倍に跳ね上がる計算になります。これは、空き家を放置することに対する、極めて重いペナルティと言えるでしょう。
第3章:税金だけではない!放置が招く最悪のシナリオ
税金の増額は、始まりに過ぎません。行政からの指導を無視し続けると、さらに深刻な事態が待ち受けています。
行政措置のステップ:「助言・指導」から「命令」へ
自治体は、問題のある空き家に対して、段階的に措置を講じます。
- 助言・指導: まずは所有者に対し、口頭や書面で問題点を伝え、改善を促します。
- 勧告: 指導に従わない場合、期限を設けて改善を「勧告」します。この勧告を受けた時点で、固定資産税の特例解除が決定します。
- 命令: 正当な理由なく勧告にも従わない場合、行政は改善を「命令」します。この命令に違反すると、50万円以下の過料が科される可能性があります。
- 最終手段「行政代執行」とその恐るべきコスト
命令してもなお改善されない場合、行政は最終手段として、所有者に代わって強制的に建物の解体などを行う「行政代執行」に踏み切ることがあります。
ここで絶対に誤解してはならないのは、行政代執行にかかった費用は、全額所有者に請求されるという事実です。行政が手配する業者は、相見積もりを取って最安値を探すわけではないため、解体費用は自分で依頼するより高額になる傾向があります。
この費用は税金と同様に扱われるため、もし支払えなければ、今住んでいる自宅や給与、預貯金などの財産が差し押さえられる可能性もあるのです。
第4章:今すぐできる!「特定空家」リスクを回避する4つのステップ
ここまで読んで、不安に感じた方も多いかもしれません。しかし、ご安心ください。今から行動すれば、これらのリスクは十分に回避できます。
ステップ1:現状把握と最低限の管理
まずは、お持ちの空き家の現状を正確に把握することから始めましょう。定期的に現地を訪れ、以下の点をチェックしてください。
- 建物外部: 屋根や壁にひび割れや剥がれはないか。窓ガラスは割れていないか。
- 敷地内: 雑草や庭木が伸び放題になっていないか。ゴミが不法投棄されていないか。
- 建物内部: 雨漏りの跡はないか。カビや強い異臭はしないか。
最低でも月に一度は訪問し、通気や通水、ポストの整理などを行うことが、管理不全と見なされないための第一歩です。
ステップ2:プロに管理を任せるという選択肢
「遠方に住んでいて、頻繁には行けない」という方も多いでしょう。その場合は、管理代行サービスの利用が有効な選択肢となります。
各地のシルバー人材センターでは、比較的安価な料金で空き家の見回りや除草、簡単な清掃などを請け負っています。例えば、横浜市シルバー人材センターでは月額3,000円台から、茅ヶ崎市や南足柄市、伊勢原市などでも同様のサービスが提供されています。まずは地元のシルバー人材センターに相談してみてはいかがでしょうか。
ステップ3:根本的な解決策を考える(売る・貸す・解体する)
定期的な管理はあくまで対症療法です。根本的な解決を目指すなら、「売却」「賃貸」「解体」といった選択肢を具体的に検討する時期に来ています。その際、自治体の補助金制度を積極的に活用しましょう。
- 解体を検討する場合: 茅ヶ崎市では耐震基準を満たさない木造住宅の除却に最大36万円、二宮町では解体工事費用の半額(上限50万円)を補助する制度があります。
- リフォームして活用する場合: 藤沢市では空き家を地域貢献施設にする改修に最大100万円、葉山町では一般的なリフォームに一律5万円の補助金が出ます。
- 売却を検討する場合: 逗子市では、売却の妨げとなる測量や登記などの費用に最大70万円を補助するユニークな制度があります。
これらの制度は年度ごとに予算や条件が変わるため、必ずお持ちの物件がある市町の公式ウェブサイトで最新情報を確認してください。
ステップ4:一人で悩まず、専門家や自治体に相談する
空き家問題は、法律、税金、不動産など様々な専門知識が絡み合います。一人で抱え込まず、専門家の力を借りることが解決への近道です。
平塚市のように、司法書士会や宅地建物取引業協会など、様々な専門家団体と連携したワンストップの相談窓口を設けている自治体も増えています。まずは、お住まいの自治体の空き家担当課に電話してみましょう。そこから、あなたの状況に合った専門家や解決策への道筋が見えてくるはずです。
結論:先延ばしが最大のリスク
湘南エリアの空き家は、放置すれば「負債」となり、行動すれば「資産」となります。「特定空家」や「管理不全空き家」の問題は、もはや他人事ではありません。固定資産税の増額や、最悪の場合の行政代執行といった事態を避けるためにも、「いつか」ではなく「今」、具体的な一歩を踏み出すことが、あなたの大切な資産と未来を守る唯一の方法なのです。