- コラム
湘南で空き家を相続放棄する前に知っておきたい5つの注意点
湘南エリアで親の実家や空き家を相続することになったものの、「維持費用が負担」「借金もあるから相続放棄したい」と考える方が増えています。しかし、相続放棄は一度手続きをすると原則として撤回できない重要な決断です。
特に2023年の民法改正や2024年4月の相続登記義務化など、相続に関する法制度が大きく変わる中、安易な相続放棄が思わぬトラブルを招く可能性があります。この記事では、湘南で空き家を相続放棄する前に必ず知っておきたい5つの重要な注意点について、最新の法改正情報を踏まえて詳しく解説します。
注意点1:相続放棄後も空き家の管理責任が残る可能性【2023年民法改正】
改正民法940条で管理責任の範囲が明確化
最も重要な変更点として、2023年4月に施行された改正民法940条により、相続放棄後の管理責任について大幅な見直しが行われました。
- 改正前:相続放棄をすれば基本的に管理責任から解放される
- 改正後:「放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有している」場合は管理責任が継続
湘南の空き家で管理責任が継続するケース
管理責任が残る具体例:
- 実家の鍵を持ち、定期的に清掃や点検をしている
- 空き家の庭の草刈りや修繕を行っている
- 家具や家電などの動産が残置されている状態で管理している
- 賃貸物件を管理し、家賃収入を得ている
管理責任が残らない具体例:
- 被相続人の生前から一切関与していない遠方の空き家
- 他の相続人が事実上管理していた物件
- 既に空き家になって長期間放置されている物件
管理責任から解放される方法
相続放棄後の管理責任から解放されるには、相続財産清算人(旧:相続財産管理人)に財産を引き渡す必要があります。
相続財産清算人選任の費用:
- 申立費用:約2万円
- 予納金:50万~100万円程度(空き家の状況により変動)
湘南エリアの不動産価値を考えると、予納金が高額になる可能性があり、相続放棄による費用軽減効果が薄れる場合もあります。
注意点2:3ヶ月の期限と「法定単純承認」のリスク
相続放棄の厳格な期限
相続放棄は「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」に家庭裁判所に申述しなければなりません。この期限は非常に厳格で、1日でも過ぎると原則として相続放棄はできません。
期限前でも相続放棄ができなくなる「法定単純承認」
以下の行為を行うと、期限前でも相続放棄ができなくなります(民法921条):
法定単純承認に該当する行為:
- 被相続人の預金口座からお金を引き出し、私的に使用
- 空き家や土地を売却・賃貸
- 家具や車などの遺品を処分・売却
- 借金を肩代わりして支払い
- 遺産分割協議に参加
湘南の空き家でよくある危険な行為:
- 空き家の解体や大規模修繕の実施
- 庭の立木を業者に売却
- 家具や骨董品を売却・処分
- 火災保険金や賃料収入の受領
期限延長(熟慮期間の伸長)の活用
相続財産の調査に時間がかかる場合は、3ヶ月の期限前に家庭裁判所に「熟慮期間の伸長申立て」を行うことで期限を延長できます。
延長が認められるケース:
- 相続財産が複雑で調査に時間を要する
- 被相続人と疎遠で財産状況が不明
- 遠方にあり現地調査に時間がかかる
注意点3:次順位相続人への「相続権の連鎖」と親族トラブル
相続権は次順位の親族に自動移転
相続放棄をすると、相続権は自動的に次順位の親族に移ります。重要なのは、家庭裁判所から次順位相続人への通知は行われないことです。
相続順位:
- 第1順位:子・孫(代襲相続人)
- 第2順位:父母・祖父母(直系尊属)
- 第3順位:兄弟姉妹・甥姪(代襲相続人)
よくあるトラブル事例
事例1:遺産分割での押し付けトラブル
長男が実家を相続し、問題のある空き家だけを次男に相続させる遺産分割協議書を一方的に送付→次男が「なぜ私だけ負動産を押し付けられるのか」と激怒→兄弟関係が決裂
事例2:疎遠な兄弟姉妹への迷惑
子全員が相続放棄→父母は既に他界→疎遠な兄弟姉妹に突然相続権が移転→兄弟姉妹が「数十年ぶりに連絡が来たと思ったら借金の相続」と困惑
事例3:甥姪への予期せぬ相続権移転
子供がいない人が死亡→兄弟姉妹も既に他界→甥姪に相続権が発生→甥姪は叔父・叔母との関係が薄く、突然の相続に戸惑う
トラブル回避のポイント
- 事前相談の徹底:相続放棄前に必ず次順位相続人に相談
- 書面での確認:口約束ではなく、書面で意思確認を行う
- 専門家の活用:司法書士や弁護士を通じた連絡・調整
- 一斉放棄の検討:必要に応じて全相続人が同時に相続放棄
注意点4:プラス財産を失うリスクと代替手段の検討
相続放棄はプラス財産も放棄
相続放棄は「すべての相続財産を放棄」するため、借金だけでなくプラスの財産も受け取れません。
湘南エリアで失う可能性のあるプラス財産:
- 不動産(空き家でも売却価値がある場合)
- 預貯金・有価証券
- 生前贈与時効完成による返還請求権
- 借地権・借家権
- 特許権・著作権などの知的財産権
生命保険・死亡退職金への影響
受け取り可能な財産:
- 生命保険金:受取人指定があれば相続放棄後も受取可能
- 死亡退職金:就業規則で受給権者が定められている場合
注意点:
- 相続放棄した場合、生命保険・死亡退職金の非課税枠(500万円×法定相続人数)は利用不可
結果的に相続税負担が増加する可能性
代替手段の検討
限定承認:
- プラス財産の範囲内でのみマイナス財産を承認
- 相続人全員の同意が必要
- 手続きが複雑で期間も長期化
相続土地国庫帰属制度(2023年4月開始):
- 不要な土地のみを国に引き渡し
- 相続放棄と違い、他の財産は相続可能
- 審査基準が厳しく、負担金(10年分の標準的な管理費用)が必要
注意点5:2024年相続登記義務化への対応
相続登記義務化の概要
2024年4月1日から相続登記が義務化され、相続により不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記申請が必要になりました。
義務違反の罰則:
- 10万円以下の過料
- 正当な理由がない限り科される
相続放棄と登記義務の関係
相続放棄した場合:
- 相続登記義務は発生しない
- ただし、放棄前に登記義務期間(3年)が経過していれば過料の対象
注意すべきケース:
- 2021年4月1日以降に発生した相続は遡及適用対象
- 相続放棄を検討中でも、まず相続登記を済ませる必要がある場合
湘南エリアでの実務対応
湘南エリアの不動産は価値が高く、登記簿も複雑な場合が多いため:
- 早期の専門家相談:司法書士等に相続登記と相続放棄の両面で相談
- 登記情報の事前確認:権利関係の調査を早期に実施
- 期限管理の徹底:相続放棄(3ヶ月)と相続登記(3年)の期限を同時管理
まとめ:相続放棄は総合的な判断が必要
湘南エリアで空き家を相続放棄する際は、以下の点を総合的に検討することが重要です:
チェックポイント
- 2023年民法改正後の管理責任を正しく理解しているか
- 3ヶ月の期限と法定単純承認のリスクを把握しているか
- 次順位相続人への影響を考慮し、事前相談を行ったか
- プラス財産の放棄と代替手段を十分検討したか
- 2024年相続登記義務化との関係を整理したか
専門家への相談を推奨するケース
- 相続財産が複雑(不動産・借金・事業等が混在)
- 相続人が多数で意見が分かれている
- 期限が迫っているが判断材料が不足
- 湘南エリア特有の不動産事情(別荘・観光地等)が関係
- 次順位相続人との関係が疎遠または複雑
最終的なアドバイス
相続放棄は「借金から逃れる最後の手段」ではなく、「相続財産全体を総合的に判断して選択する手続き」です。特に湘南エリアの不動産は、一見価値がないように見える空き家でも、立地により意外な価値を持つ場合があります。
安易な判断で後悔することのないよう、必ず専門家に相談し、すべての選択肢を検討した上で決断することをお勧めします。湘南空き家バンクでは、このような相続に関するお悩みについても専門家ネットワークを通じてサポートいたします。まずはお気軽にご相談ください。